第15話 牡蠣(かき)と亜鉛
牡蠣鍋は冬の食卓の醍醐味です。この時期に牡蠣を食べますと、肉食が苦手な人には格別な恩恵があります。何かと言いますと、ちょっと大きめの牡蠣を5つほど食べれば、1日必要量に近い必須栄養素の亜鉛(ミネラルの一種)を摂れるのです。一体どういうことでしょうか?
この地球で亜鉛が一番豊富な食べものは牡蠣です。二番目は豚レバーですけれど、牡蠣の半分にも足りません。野菜や果物にはほんの少ししか入っていません。現代人が必要としている必須栄養素のなかで、最も不足しやすい栄養素の1つです。
亜鉛は全身に分布して、どんな臓器のどんな細胞にとってもなくてはならない栄養素です。もし不足すれば、怪我が治らない、元気が出ない、顔色が悪い、皮膚に艶がない、夫婦仲が上手く行かない、髪が抜ける、物忘れが激しい、血糖値や諸々の検査値に異常が出る、数え上げれば切りがありません。
どうしてそんなことになるのでしょうか?それは、酵素など身体にとって大切なタンパク質のうち、およそ300種類が、亜鉛なしでは働かないからです。
私が大学に勤めていたころ、学生食堂の冬のメニューに牡蠣フライの日がありました。でも直ぐに売り切れてしまったのです。牡蠣を食べると記憶力が良くなって、期末試験に合格すると信じた学生さんがいたのかも知れません。
何は兎も角、縄文時代の人々にとっても、牡蠣は貴重な栄養源でした。大衆薬の傷ぐすり/皮膚病薬の亜鉛化軟膏は今でも健在です。治りにくい床ずれや打ち身のあざにお悩みの方にも、牡蠣の栄養が思わぬ効き目をもたらします。でも、生牡蠣は避けたほうがいいですよ。