第27話 白い食べもの
冬に白いのは雪景色だけではありません。食べものだって白が多いのです。正月のお餅はその代表格。野菜ならば大根、魚は赤身より白身が目立ちます。
筆者が子供の頃、お餅の味つけといえば、醤油、砂糖、あんこ、黄な粉、もう1つは胡麻でした。なのに最近は「おろし大根」が人気です。実際食べてみますと、これがお餅にぴったり合っているのです。つきたてのお餅を、おろし大根で食べてみれば、少々食べ過ぎてももたれることがありません。
生の大根に入っている消化酵素ジアスターゼ。この酵素はデンプンを分解するので、お餅と一緒に食べれば、消化がよいのです。ジアスターゼを発見したのは明治の実業家で薬学博士の高峰譲吉でした。いまある第一三共株式会社は、その昔高峰が発見したジアスターゼを「タカジアスターゼ」と名づけて薬とし、初代社長に迎えたのです。タカジアスターゼは今でも売れ筋の胃腸薬に入っています。
冬の大根料理と言えば、寒ブリと合わせたブリ大根が有名です。じっくり煮込むと、厚切りの大根がブリの旨味を吸い込んで美味しくなるというのです。大根は本来味気ない食材ですが、それだけに周りの食材の味を徹底的に吸い込んで、癖のない日本料理に仕上がるのだそうです。
冬の金沢には、寒ブリを大きな白い蕪(かぶ)で挟んで漬け込んだ蕪(かぶら)ずしもあります。蕪ずしを売っているのは寿司屋ではなく、漬物屋ですから、お間違いなく。もう1つ、冷たい海で脂の乗ったサバやブリの棒寿司(押し寿司)は他所では味わえない北陸の上物です。
さて、なんと言っても冬の醍醐味は鍋料理でしょう。白味噌で煮込んだ牡蠣鍋とか、ふぐちり鍋よりずっと安上がりなたらちり鍋で我慢して、せめて白子を入れていただくとか、白葱と白菜をたっぷり加えて、冬場に不足しがちな水溶性ビタミンを補給しましょう。ついでにお腹も満たされれば、もう大満足です。
というように、冬には白い食べものがいっぱいあります。ただし白いものばかりでなく、人参と牛蒡に加えて季節外れの緑色野菜や本来は夏の果物だって手に入ります。そういう時代になったのですから、一寸気配りして、白い食べものにちょっとだけ旬を感じながら、五味五色を味わう生活習慣が大事です。