「TOKYO2020は大成功でした」と政府は平然と言いますが、その陰で40代50代が自宅療養中に重症化する例が止まりません。「デルタ株が強いから」とTV専門家は半ば諦め気味のコメントを述べて、司会者は「ウイルスが変わっても密を避ける対策は同じです」とまるで他人事のように聞こえます。しかし筆者が残念に思うのは、TV料理番組に「コロナ対策レシピ」が出てこないことです。実りの秋、食欲の秋、読書の秋・・・美味しいものを沢山食べて、知識を深めて、コロナから自分の身を守る知恵を実行するチャンスです。

　繰り返しますが「知識は力」です。ワクチンで得られる獲得免疫力に「合わせて1本！」となる自然免疫力（生まれつきもっている免疫力）の技を鍛えれば、コロナ対策だけでなく、病気を予防する百人力になるのです。
　その知識とは、「陽にあたって運動する」こと以外は、食の世界に揃っています。自然免疫力を高めて感染に負けない栄養素の三種の神器とは、次の3つです。
●亜鉛(最新の出典1)
●ビタミンD（最新の出典2）
●ナイアシン(最新の出典3)
　亜鉛は酵素や受容体などにとって、なくてはならない相棒です。亜鉛が不足すると酵素も受容体も動きが鈍って、身体のあちこちに不具合が生じます。貧血、食欲不振、皮膚炎、生殖機能の低下、慢性の下痢、脱毛、低アルブミン血症、味覚障害、認知機能障害などさまざまな症状に加えて、免疫力低下が起こるのです。

　新型コロナウイルスの感染受容体ACE2も亜鉛がないと減ってしまいます。「ならば亜鉛を減らすべきだ」と思うかも知れませんが、そうではありません。もしACE2が減ってしまうと、血圧が上がり、動脈が硬くなり、心臓に負担がかかります。すると万が一感染したとき重症化につながってしまうのです。亜鉛の多過ぎは不具合の原因ですが、適切な量の亜鉛は不足してはなりません。厚労省によれば、多くの日本人が亜鉛の摂取基準を満たしていないそうです。日本人のほとんど誰もが亜鉛を必要としています。

　次はビタミンD。昔の人は野で働き、太陽の光を浴びて、自分の皮膚でビタミンDを作っていました。今はそうは行かない環境の変化があります。昔はビタミンDの宝庫と言われた干しシイタケがありましたが、今は滅多に食べることがありません。専門家によると、日本人成人の80％でビタミンD不足が見られるのだそうです。

　ビタミンDが新型ウイルス肺感染の重症化を予防する役割について、多くの論文がメカニズムを報告しています。そして、血中酸素が低下する重度の肺炎の治療には、ほぼ全症例にビタミンDが使われています。軽症の患者が自宅療養を余儀なくされる今、ビタミンDの不足は突然の重症化の原因にもなるし、逆に足りていれば重症化を予防する栄養素になるのです。

　最後にナイアシンについて。これはビタミンB3のことで、体内でNADというエネルギーを生み出す重要分子に変わります。細胞の発電所とも言われるミトコンドリアにとって、NADはなくてはならない相棒です。遺伝子の傷を治す酵素と連動して、ウイルスの増殖を防ぐ役目も担っています。NADの原料となるナイアシンには、実は動物型と植物型があって、若い人はどちらも役に立つのですが、年を取ると動物型は無効になってしまいます。そのため多くの高齢者がNAD不足の状態に陥ってしまうのです。植物型を含んでいる食品が少ないことが原因になっています。
　では、どんな食べ物を食べれば三種の神器を補うことができるでしょうか？表にして分かり易くしてみましょう。

表.自然免疫力を高める栄養素を多く含む食品
１．亜鉛を多く含む食品　
　　牡蠣、豚肉、牛肉・・・冬になったら牡蠣、それまでは豚肉と牛肉を週に数回は食べましょう。
２．ビタミンDを多く含む食品
　　キクラゲ、メザシ、しらす干し、鮭・・・キクラゲを毎日食べると良いですが、イワシとイワシ製品にも多く含まれています。
　　たまに鰻を食べれば尚良いです。
３．ナイアシン（ビタミンB3）
　　若い人：牛肉、豚肉、鶏肉など肉類
　　高齢者：量は少なくても肉類は大事、もっと大事なのが玄米とキノコ（特にヒラタケ）・・・植物性ナイアシンを摂ることは難しいですが、七分づき米を好きになれば簡単です。また、これからの季節はキノコが美味しいので、特にヒラタケにかなり多く含まれています。

　最後に付け加えると、以上の他にビタミンAとCも自然免疫力をアップする栄養素で、これらは種々の野菜と果物から摂れるので、あまり気配りする必要はなさそうです。それでもより上手に摂ろうとするならば、薬食同源の「五味五色の法則」に従って、甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の食べ物を混ぜることと、緑、赤、黄、白、黒(紫)の五色を野菜と果実で揃えること、これこそが薬食同源の免疫力アップ法と言えるでしょう。

　もう一度書きますが「秋は免疫力アップの絶好の季節」です。

出典（最新の文献のみ引用しました）
1) M Duan, et al. Zinc nutrition and dietary zinc supplements.Crit Rev Food Sci Nutr.2021 Aug 12;1-16.
2)N Nimavat, et al. Vitamin D deficiency and COVID-19: A case-control study at a tertiary care hospital in India. Ann Med Surg (London). 2021 Aug;68:102661.
3)CD Heer, et al. Coronavirus infection and PARP expression dysregulate the NAD metabolome: An actionable component of innate immunity. J Biol Chem. 2020 Dec 25;295(52):17986-17996.