第99話 ナスとキュウリの相加・相乗効果とは

ナスを2つ食べるより、ナスとキュウリを1つずつ食べる方が栄養豊かな食事になります。どうしてそうなるか考えてみましょう。まず最初に、人が生きるために食べなければならない栄養素は、三大栄養素と呼ばれる炭水化物、タンパク質、脂肪の3つ。これらは身体を作る原料を供給し、かつ身体を動かしたり考えたりするエネルギーを供給します。この3つとは別に、必須栄養素という化合物群があります。ビタミン、ミネラル、必須アミノ酸、必須脂肪酸です。これらが何をしているかというと、必須アミノ酸はタンパク質となり、必須脂肪酸は健康な脂肪組織を作ります。そしてビタミンとミネラルは、三大栄養素が身体を作りエネルギーを生むための物質代謝を円滑に進める酵素タンパク質を活性化しているのです。

 ここで相加効果というのは「足し算の効果」という意味で、「ナスを1つ食べるよりも2つ食べた方が栄養素の量が倍になる」ということです。ナスの栄養素の種類は変わらずに、量だけが増えることを表わしています。これに対して相乗効果というのは「掛け算の効果」という意味で、ナスとキュウリを1つずつ食べれば、栄養素の種類が増える、つまり「効き目の幅(効き目のスペクトルともいう)が広がること」を意味しています。幅とかスペクトルというのは、例えば風邪から臓器がんに至るまでの多くの病気の広がりのことです。

 では、薬について見てみましょう。これからの季節に罹り易い風邪に使われる「総合感冒薬」の場合です。誰もが経験する風邪の症状は複雑で、喉の痛み、鼻水や鼻づまり、咳、熱、くしゃみなど多彩です。症状が1つだけの風邪はむしろ少なくて、多くの場合に症状が重なっているのです。咳止めや熱冷ましといったような症状に合わせて飲む薬ではなく、総合感冒薬が使われることが多いのです。個々の症状によく効く薬を混ぜ合わせる理由は、複数の薬の相乗効果で複雑な風邪を一気に改善させるという狙いがあるのです。

 では次に、痛み止めの場合を考えてみましょう。頭痛、生理痛、神経痛、怪我など、痛みにも色々ありますが、体の何処かに炎症が起こって、その痛みを脳の痛み中枢が感じるという「痛みの経路」はほぼ同じです。炎症を抑える抗炎症薬だけで治ることもありますが、それでも治らないときには中枢性の痛み止め(カロナール/アセトアミノフェン)を同時に飲むと効くようになります。これは抹消と中枢の相乗効果です。もし、抗炎症薬だけで効かないからと言って、別の抗炎症薬を合わせて飲んだとしても、効かないことが多いのです。何故なら同じ効き目の薬だと、相加効果しか出ないからです。

 ここでちょっと寄り道の話をします。100年以上も昔から痛み止めには特別な配合薬が使われて来ました。お茶やコーヒーに含まれているカフェインのことです。最初はアスピリンとカフェインの併用で始まったのですが、今では市販されている痛み止めの6∼7割がカフェイン入りで、カフェインフリーは3∼4割に留まっています。しかし近年になって、カフェインフリーの商品が増える傾向にあるようです。理由は色々ありそうですが、1番の理由は妊産婦でも安全に使える方向を目指すからだと思われます。

 痛み止めも配合されている総合感冒薬にカフェインが入っている理由は色々です。風邪薬を飲んで眠くなる副作用を減らすためとか、ぼんやりしている頭をスッキリさせるためとか、あるいはカフェインの何らかの作用が主薬の効果を強めるからといったような、臨床試験抜きの俗説がほとんどでした。しかし近年のしっかりした臨床試験に基づいて、「カフェインには弱いながらも解熱鎮痛作用を強める効き目がある」ことが分かったのです(文献1)。しかし、その効き目は決して強くはないので、カフェインを積極的に配合する根拠は依然として曖昧です。それよりもお茶やコーヒーからカフェインを摂っているので、一般用市販薬のカフェインは妊産婦にとってむしろ健康リスクにつながりかねません。

 話は戻りますが、最初に書いたナスとキュウリの話には続きがあります。ナス2つ、キュウリ2つより、ナスとキュウリを1つずつ食べる方が身体に良い・・・ならばもっと種類を増やせば、もっと栄養豊かになるのではないか?その通りです。では何種類を食べたらよいでしょうか?厚生省(現在の厚労省)が1985年に、生活習慣病を予防する栄養バランスの指針として、「1日30種類」を食べるように推奨したことがありました。しかし、その後2000年になって、「多品目摂取がかえって栄養の過剰摂取につながる可能性がある」などの理由で削除されました。実現はしなかったのですが、確実に言えることは、腹八分目にして多品目を摂ることは、科学(薬理学や栄養学)に裏打ちされる「薬食同源の世界」であると筆者は思っています。

文献1) Derry CJ, Derry S, et al. Caffeine as an analgesic adjuvant for acute pain in adults. Cochrane Database Syst Rev 2014:CD009281.

薬食同源一覧