第101話 カフェインとのつき合い方

 カフェインは劇薬に指定されています。劇薬とは毒性が強い医薬品のことで、作用が強いため取り扱いに注意が必要なものとされています。ただし、錠剤1錠とか散剤1包中のカフェイン量が500ミリグラム未満ならば劇薬ではありません。また、中毒症状が現れる可能性のある量の目安として250ミリグラム以上が挙げられています。したがって、カフェインを含む製品でも、その量によっては、一般用医薬品としてドラッグストアで買えます。コーヒーや緑茶のように1杯に含まれているカフェインの量が250ミリグラム未満であれば、誰でも何時でも自由に買えるし、何処の喫茶店にも自由に出入りして、コーヒーでも紅茶でも注文できるのです。

 とはいうものの、もし1錠中の量が100ミリグラムであっても、1度に3錠をまとめて飲めば300ミリグラムになるので、250ミリグラムを超えて、中毒症状が現れる可能性があります。ですから、1回1錠で1日3回までとなっている錠剤なら、正しく飲めば中毒症状が現れる可能性は低いですが、3錠を1回で飲んでしまうと危険です。言い換えれば、カフェインが「劇薬」か「中毒症状が現れる可能性のある量」か、それともただの薬かという区別は紙一重の関係にあるのです。

 これをコーヒーに当てはめて考えてみましょう。よく「1日に3杯が限度です」と言われる訳は、1杯に100ミリグラムで3杯なら300ミリグラムになります。朝昼夕と3回に分けて飲むならば1回100ミリグラムとなり中毒症状を引き起こす量ではありません。仮におかわりして2杯飲んでも200ミリグラムであり、これも中毒症状を引き起こす量ではありません。しかし3杯目をおかわりすると300ミリグラムとなり、中毒症状が現れる可能性のある量を飲んだことになってしまいます。そうなった場合にはその日の4杯目は無しにした方が健康上よいということです。

 では次に高齢者の場合はどうでしょうか?寝つきの悪い高齢者の場合、「夜寝る前にカフェインを飲むと眠れなくなる」ということには、当てはまる人とそうでない人がいるようです。夜更かししていてコーヒーを飲んでも、慣れている人は床につくと直ぐに寝入ってしまいます。でも初めてコーヒーを飲んだ人にとっては眠れぬ夜になってしまうのです。さて、そんなコーヒーに含まれている劇薬カフェインなのですが、ごく最近になって驚くべきニュースが飛び込んできました。

 大分前の東京大学の研究で、「カフェインを飲むと計算能力や記憶力が上がる」という論文がありました。その影響かどうかは分かりませんが、定期試験の一夜づけにはコーヒーを飲むと良いなどとも言われました。ところが今回の驚くべきニュースとは、「カフェイン入りコーヒーを1日1杯でも飲んでいると、アルツハイマー病になるリスクが大幅に減る」という論文発表のことなのです。その論文を書いたのはハーバード大学の研究グループで、掲載誌はJAMA(米国医師会雑誌)という権威ある医学誌です(文献1)。そして同じ日のNature誌には、この論文に向けた論評が発表されたのです(文献2)。その論評の書き出し部分を紹介しましょう。

 『ほとんどの米国成人の一日はコーヒーで始まります。多くの人がエネルギー補給のためにカフェインを摂取しますが、本日JAMA誌に掲載された研究によると、この刺激物質には脳への長期的な効果、つまり長期間にわたり明晰な思考力を維持する効果があることが示唆されています。 この研究は、カフェイン摂取と認知機能の関係に関する、これまでで最も長期にわたるデータであると著者らは書いています。コーヒーや紅茶からの適度なカフェイン摂取は、認知症リスク低下と認知機能低下の両方と関連していることがわかりました。専門家はこの研究の規模を高く評価していますが、結果の解釈には注意が必要だとも指摘しています。』

 以前から、コーヒーは認知症のリスクを下げるとの研究が、世界のあちこちにありました。しかし、どの研究も対象者の選択に問題があったり、調査期間が短かったりして、信頼性に欠けるものだったのです。それが今回の論文では13万人という多数の調査で、しかも調査期間は「無症状の記憶力低下が始まってから、それが認知症と診断されるまでの十分な期間に渡って追跡された結果なので、JAMAへの論文掲載が認められたということなのです。残された疑問点は、カフェイン抜きのデカフェには何の効果も認められないのに、カフェイン入りコーヒーにだけ認知機能を守る働きがあることの理由が全く分かっていないことです。

 最後に、今やお茶やコーヒーは身体に良いという話は社会に定着しつつありますが、劇薬カフェインとそれを含む飲料の不思議な効き目には、現代科学でも解けない疑問がまだまだ残っているのです。

文献1) Zhang Y, Liu Y, Li Y, et al. Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Function. JAMA. 9:e2527259, 2026.
文献2) Heidt A. Coffee linked to slower brain ageing in study of 130,000 people. Nature. 650: 536, 2026.

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