第71話 フレイルにならないために

 年を取ると、他人の名前が出てこない、昨晩何を食べたか思い出せない、といった物忘れ、コロナで運動不足がたたったのか、ちょっと歩いても息が切れる、孫と遊んでも以前のように面白くない、入院すると寿命が減る、よく眠れない・・・言い出したらきりがないほど年を感じる・・・そんな状態をフレイルと呼んでいます。フレイルは生活習慣病のように生活習慣を改善すれば治る可能性が残されている症状のことです。

 細かな説明は抜きにしますが、米糠(ぬか)を食べなくなった日本人高齢者が急速に虚弱化しているという意見があります。そこで、糠は不味いので、糠が少し残っている玄米を食べるようになって元気になったという話もあります。何故でしょうか?

 米糠に入っている、そして米糠だけに他よりずっと多く入っている栄養素が「ビタミンB群」だからに違いありません。B1、B2、B3(ナイアシン)、B6、葉酸、パントテン酸、ないのはB12くらいです。なかでも特記すべきはナイアシンとも呼ばれるニコチン酸。

 B3以外のビタミンは、それ自体が活性体で、食べればすぐに役立ちます。しかしB3は違います。B3のニコチン酸もニコチナミドも、どちらもナイアシンと呼ばれていて、食べて体に入って、NADという補酵素になって、それからミトコンドリアに入り込んで、エネルギーを作る役目を果たします。

 若い人なら、ニコチン酸でもニコチナミドでも、どちらもNADに変わります。米糠を食べなくても、ニコチナミドを多く含む豚肉牛肉を食べていれば良いのです。しかし、高齢者は違います。高齢者は、ニコチン酸だけがNADになるB3なのです。どうしてかって?そんな難しい話はここではしません。それより大事なことは、NADがミトコンドリアでエネルギーを生み出す唯一の分子ということです。

 ニコチン酸しかNADにならない高齢者が、米糠を食べなくなったらどうなるか・・・NADが欠乏して、VB3欠乏症になって、エネルギー不足で物忘れはする、早く歩けない、寝たきりになる、元気が出ない・・・フレイルになってしまうのです。エネルギーが不足して、ガソリンが切れた車のように、バッテリーが切れかかったスマホのように、頭にカスミが掛かって、もうどうにもなりません。

 だから年寄りには、米糠の代わりになるニコチン酸を含む食べ物が必要なのです。でも悲しいことに、そういう食べ物は滅多にありはしないのです。あるのは真っ黒になるまで深く煎ったコーヒーです。コーヒーこそが、高齢者のビタミンB3供給源と言えるのです。

 でもそんな苦い飲み物なんて、1杯飲むのも大変なのに、2杯も3杯も飲めませんと、多くのお年寄りが言うでしょう。「他に美味しい食べ物はないのですか?」と何度も何度も聞かれました。でも、ヒラタケ100グラムを毎日食べられますか?ピーナッツオイルを大量に含んだピーナッツを、毎日何十粒も食べられますか?そんなことしたら健康に良い訳がありません。

 最後に誰もが思うのは、「サプリかビタミン剤はないのか?」だろうと思います。でも悲しいことに、この日本でニコチン酸は売られていません。食べ物で工夫する以外に誰でもできる簡単な方法は無さそうです。

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