第73話 特効薬がありさえすれば

 前回は、自然免疫力の弱い人が新型ウイルスに感染すると、変異株が出来やすいことを書きました。自然免疫力を高める生活習慣も紹介しました。ワクチン接種を受けた人も大分増えてきましたが、それでも感染は心配です。手軽に飲める特効薬(治療薬)があれば、こんな嬉しいことはありません。特に、何かの理由でワクチン接種を受けられない人にとって、感染したときの特効薬は命綱です。

 日本で最初に話題になったのはアビガンでした。総理大臣が勧めるアビガンでしたが、特効薬からは程遠いものでした。世界保健機構(WHO)が勧めたのはマラリヤの薬でしたが、これも今では大して効かない薬になってしまいました。本格的な特効薬づくりが始まったのは昨年2月のこと。神戸にある理化学研究所が世界一の計算能力をもつコンピューター「富岳」を使って、ウイルスのタンパク質を計算したのが切っ掛けでした。その計算には10日間もかかったそうです。

 それほど凄い計算とは、一体どんなものだったのでしょう。2019年の暮れに、中国が公開した「ウイルスが増殖のために必要な酵素タンパク質」には、表面に小さな窪みがあります。その窪みにピッタリ当てはまる小さな分子が、ウイルスの増殖を抑えるのです。つまり窪みはウイルスの命なのです。それが報じられた途端に、世界中の製薬会社が「特効薬は出来たも同じ」と思ったはずです。彼らの考えは「最も強くしっかりと結びつく分子を見つけよう」でした。しかしそれには分子ドッキングと呼ばれる超精密な計算が必要です。理研の研究者たちは、酵素タンパク質の窪みの微細構造と、ピコ秒ごとに振動を繰り返す、いわば分子の震えをネット動画で公開したのです。

 世界中の創薬研究者が動画に見入り、独自の知識と合わせて、特効薬を見つける競争が始まりました。間もなく世界のあちこちから、「食べ物の成分から見つかった」、「飲み物にも入っていた」、「自分の選んだものが一番よいはずです」、「私たちは漢方薬を調べた」等々多くの論文が発表されました。中にはTVで報道された候補物質もありました。

 そこで筆者が調べたことは、ほんのわずかな量ではない十分な量が、身近な飲食物に入っていて、それを食べたり飲んだりすれば役に立つかも知れない・・・というものを拾い出すことでした。新型コロナウイルスにも「薬食同源」の原理が成り立つのではと思ったのです。表にまとめたのでご覧ください。

表.新型コロナウイルスの酵素タンパク質に結合する飲食物の成分
  カフェイン       コーヒー、お茶
  クロロゲン酸      浅く煎ったコーヒー、ゴボウ、ナス、サツマイモなど
  カフェ酸        浅く煎ったコーヒー、ウコン、バジル、リンゴなど
  フェルラ酸       浅く煎ったコーヒー、全穀フレーク、トウモロコシ、タケ ノコ、ナッツなど
  植物性ナイアシン(VB3)  深く煎ったコーヒー、ヒラタケ、ピーナッツ
  動物性ナイアシン(VB3)  豚肉、牛肉、魚介類など
  ビタミンB12(VB12)    魚類、貝類、肉類など
  クルクミン       ウコン、ターメリック

 まずカフェインは、お茶とコーヒーの主成分で、知らない人が居ないくらいよく知られています。こんな身近なものが、新型コロナと関係するなんて、誰も思わないことでしょうが、広い世界にはそういう発見をする人が居るものなのです。カフェインは医薬品にもなっていますが、どう見ても、薬として飲むよりお茶やコーヒーから摂るのが自然で良いと思います。

 次にクロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸の3つはポリフェノールの仲間で、野菜や果実や穀類に広く分布している抗酸化性成分です。特にコーヒーの生豆には十分な量が含まれています。しかし、生豆を焙煎した飲用コーヒーには、焙煎度が増すにつれて含量が減るという特徴があります。ですから浅く煎ったお茶のようなコーヒーに多く含まれているのです。

 次の2つはナイアシンで、どちらもビタミンB3に分類されている必須栄養素です。動物性と植物性があって、動物性は含量も多く、日常よく食べる肉や魚に入っています。反面、植物性ナイアシンを含む食品は少なくて、深く煎ったコーヒーの他には、キノコのヒラタケと大粒ピーナッツくらいしかありません。しかも高齢者では、動物性ナイアシンの有効性が低下しているので、植物性を摂りたいところなのですが、自然界のことなのでやむを得ません。その次のビタミンB12も肉や魚に多く含まれていますから、そこからナイアシンと同時に摂ることができるのです。

 それではもう少しの辛抱です。オリンピックが無事に終わることを期待しましょう。

薬食同源一覧