第77話 世界の健康食とコーヒーとお茶

 地中海食と和食がユネスコ認定の世界無形文化遺産に指定されています。歴史的にも文化的にも自然の素材を活かして優れているとの評価です。もちろん健康に良いことは誰もが知っています。では何がどのように健康に良いのでしょうか?調べてみたら、地中海食にも和食にも共通する組み合わせが見つかったのです。先ずは和食から見てみましょう。

 現在の日本人が毎日食べている和食の中味は、昭和前半までとはかなり変わっています。国立長寿医療研究センターの発表によりますと、先ず昭和前半までの和食の中味を①の「古い和食」に位置づけます。そこには典型的な素材が7つ並んでいて、どれもが身体に良い(+評価)です。加えて牛豚肉は明治以後の食材です。すき焼きや豚カツは確かに日本で生まれた料理ですが、赤身肉の摂り過ぎは(-評価)です。更にコーヒーは、第二次大戦後の米軍占領下で急速に広まった飲み物ですが、これも(-評価)です。

①古い和食:
 (+評価)米、味噌、魚貝、黄緑野菜、海藻、漬物、緑茶
 (-評価)牛豚肉、コーヒー
②現在の和食:
 (+評価)米、味噌、魚貝、黄緑野菜、海藻、漬物、緑茶、大豆と大豆製品、果実、茸
 (-評価)牛豚肉、コーヒー
③現在の和食R:
 (+評価)米、味噌、魚貝、黄緑野菜、海藻、漬物、緑茶、大豆と大豆製品、果実、茸、コーヒー
 (-評価)牛豚肉

 次に②の「現在の和食」とは、昭和30年代から盛んに研究されてきた大豆と茸、および生産地と供給量が全国的に増えた果実を①に加えたもので、健康的な食べ物として農水省と文科省が推奨しています。ただしここでもコーヒーは(-評価)です。

 最後に③の和食は「現在の和食R」で、これは②のコーヒーの評価をマイナスからプラスに変えただけのものです。変えた理由は、同センターの初期の研究では、コーヒーと牛豚肉を(-評価)とし、その他は(+評価)として集計していたのですが、最近10年の間に、それまで健康に良くないとされていたコーヒーの見直しがほぼ完了して、三大死因病や認知症のリスクを減らす(+評価)の飲み物と考えられるようになったからです。

 それでは国立長寿医療研究センターが、3種類の和食の健康効果を比較して順位づけした結果を簡単に説明します。9種類からなる①の古い和食より、12種類からなる②の和食の点数がやや優れているのですが、その差は統計的に有意ではありません。しかし、コーヒーの評価点をマイナスからプラスに変えた③の和食では、最終評価点が一気に有意差を超えて高まったのです。これは研究者自身も驚くほどの想定外の結果でした。

 実はこれと似た現象が2017年にイタリアで発表された地中海食でも見つかっていました。地中海食を食べた後でコーヒーを飲む人たちは、心血管病で亡くなるリスクが低いとのことです。和食に似て健康には良さそうな食材で作る地中海食は、それだけでも健康に良いのですが、それにコーヒーが加わると更なる効果が得られるというのです。

 では和食の場合、緑茶もコーヒーと同じように、和食そのものの効果を高めるのではないでしょうか?国立長寿医療研究センターの発表はそのことに触れていませんが、多くの日本人が「食後のお茶はきっと身体に良いはず」と思っています。お茶の疫学研究が不足しているので、正確な数字は解りませんが、お茶を飲むことで胃液の分泌が盛んになって、消化を助けることは、実験で確かめられている事実です。

 さて筆者は毎朝コーヒーを飲んでいますが、昼と夜は食事に合わせてコーヒーかお茶を飲んでいます。食後の飲み物は世界の何処でもコーヒーかお茶が一番人気です。これには、美味しいから、さっぱりするからだけでなく、何か理由があるはずです。筆者が「なるほどなあ」と納得した論文が最近発表されました。研究論文の数は、お茶よりコーヒーの方がずっと多いのですが、お茶もコーヒーも両方飲む人の方が、三大死因病のリスクが低いというデータです。

 いかがでしたか?お茶は好きで毎日飲むけれど、コーヒーは進んで飲む気にならない・・・という方が大勢いらっしゃると思います。そこで筆者が今も試行錯誤しているのは、苦くないまろやかな味のコーヒーの淹れ方です。外出がままならない昨今ですから、皆さんも家でコーヒーを淹れてみたらいかがでしょうか。

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