第82話 元気で長寿になる食べものの話

 明けましておめでとうございます。
 1年の計は元旦にあり。今年は不老長寿ではなく「元気長寿」の科学を実践したいと思います。何故「不老」ではなくて「元気」なのかといいますと、「美味しいものを食べたら元気が出ますか?」と聞かれれば直ぐに「Yes!」と答えるでしょう。でも「美味しいものを食べたら不老になりますか?」と聞かれても、答えに困ってしまいます。ですからここは「元気→不老→長寿」の順に考えて、先ずは「元気」から実践しようと思います。

 薬学の教科書によりますと、食べれば元気が出て、副作用のない栄養素はビタミンB群です。B1(アリナミン)、B2、B3(ナイアシン)、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ビオチンの8種類があります。総合ビタミンB剤なら全部が入っているので、食欲が出ない、風邪を引いたなど、元気が出ないときには役立ちます。では、VB剤を飲むとどうしてそんなに元気が出るのかと言いますと、8つのVBsが全部揃うと、体を動かしたり頭を使うためのエネルギーを、いつでもどこでも必要なだけ作ってくれるからです。逆にどれか1つでも欠けてしまうと、エネルギー不足で元気がなくなってしまいます。そのため厚労省では、1日に必要な量を定めて推奨しているのです。

 では次に、元気が出る食べ物について見てみましょう。筆者の感覚では、多くの日本人が「それは鰻」と答えると思います。しかし、VBは毎日コンスタントに食べる必要があるので、鰻は高脂血症のリスクが高くなってしまいます。米国には、国立保健衛生局NIHの大規模調査があって、米国内で最も広く使われている食べ物サプリメントはニンニクとニンニク製品とのことです。日本でもにんにくはスタミナをつける食べ物と言われていますが、臭いを嫌う人が多くて、絶対に食べない人もいます。
 日本人に好まれる「にんにくの仲間の食べ物」を探してみました。するとヒガンバナ科のネギ属がヒットして、丁度今の季節に人気の野菜「ネギ」ということになりました。そこで一句、
 葱白く 洗たちたる 寒さかな (芭蕉)
昔から日本の白ネギは真冬に出荷される新鮮野菜で、ビタミンの補給源でもあったのです。

 では、ネギにビタミンB群は入っているでしょうか?十分ではありませんが、B12を除いてどれもが満遍なく入っているのです。もう1つ大事なことは、皆さんもよくご存じのように、ネギ科の野菜にはネギ、玉ネギ、ラッキョウ、ニラなどがあって、どれもニンニクほどではないものの、共通の強い匂いがあるのです。その匂いとはニンニクに最も多く入っているイオウ元素を含んだ化合物アリシンです。そしてこのアリシンがネギ属の元気のもとになっているのです。

 漢方でネギは葱白(そうはく)と言って、冬場の薬膳では白菜と並ぶ人気の野菜です。もちろん葱白を配合した漢方薬もありますが、市販薬としては葛根湯の方が有名になりました。葱はむしろ民間薬として、特にショウガと一緒に煮込んだスープは、「これだけ飲んで休めば風邪は治る」と言われるほどです。

 さてここまでのお話で、ネギ科の野菜にはVBsが含まれていることと、強い匂いのもとになるアリシンが入っていることが分かりました。ではこのアリシンが元気のもとになるメカニズムについて調べてみましょう。するとビックリするような効き目が、日本薬学会ホームページにまとめてありました。

 アリシンをビタミンB1(薬としてはアリナミンが有名)を含む食品と一緒に食べるとアリチアミンになって吸収されます。本来は水溶性のB1ですが、腸での吸収率が高くないのが欠点です。そのアリシンがB1と結合してアリチアミンになると、なんと脂溶性に変わってよく吸収されるようになるのです。吸収されたアリチアミンは体の中でB1に戻り、エネルギー産生を促進してあっという間に元気になるのだそうです。つまりネギ属のアリシンは、水溶性B1の吸収促進薬なのです。ですからB1をネギ属より多く含む肉類、特に豚肉を調理するときにニンニクを使うと更なる元気のもとになるのです。

 さて如何ですか?豚肉が好きな中国人が、同時ににんにくも大好きな訳が分かるような気がしますね。そしてニンニクが苦手な日本人はネギが大好きで、江戸時代に「鴨が葱を背負ってきた」などと言っていたのも、薬食同源に通じるお話だったのです。

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