第90話 しじみ1800個分のオルニチンとは

 健康食品の人気が高まる中で、紅麹(べにこうじ)事件が起きました。紅麹そのものは安全な食品ですが、その他のサプリは大丈夫でしょうか?

 10年ほど前から「しじみ○○〇個分のオルニチン」という広告が目につきます。新聞広告に書かれている効き目の安全性の根拠が示されていれば安心できるのに、と思いました。今回はしじみの成分「オルニチン」を取り上げて、根拠となる情報をまとめます。

 最近は「1800個分のオルニチン」だそうです。広告によると、1日分は6錠で、そこに含まれているオルニチンは800ミリグラムだそうです。そして効き目は、「朝スッキリ、1日中元気」ということですから、寝不足世界一の日本人にはピッタリです。

 そこでアメリカ国立衛生研究所(NIH)のデータベースを使って調べたところ、まず最初に気づいたことは、「オルニチンによる健康被害を書いた論文は少ない」ということです。対照的に健康に良いと書いた論文は沢山目につきます。そんな中で、2011年に発表された文献1を読んでみると、多くのよい点と共に、気になる副作用のことが書いてありました。「オルニチンの摂り過ぎは網膜細胞を傷つける」と言う記述です。同時に血中オルニチン濃度が「600マイクロモル/リットル(以下、危険値と呼ぶ)を超えると網膜毒性が発現する」ということも書いてありました。

 では、オルニチンをどのくらい飲むと危険値を超えてしまうのでしょうか?文献1には、2006年にブタペストで開催された「アミノ酸学会発表を参照」となっていました。その発表とは、5グラムのオルニチンを飲んで、その後5時間にわたって15回も採血して、その都度オルニチンを測定したそうです。すると1時間後の採血で最高値が観察されて、その数値は危険値に近いものでした。具体的には、新聞広告に書かれている1日分800ミリグラムの約6倍の数値でした。

 それでは次に、オルニチンの効き目「朝スッキリ、1日中元気」についてはどうでしょうか?筆者が注目したのは、オルニチンが筋肉や神経細胞に蓄積するアンモニアを排泄する作用です。何故ならこの作用が疲労回復につながることが分かっているからです。

 実際に文献2を読むと、自転車エルゴメーターでややきつい4時間の運動をしたときのデータが見つかります。自転車を漕ぐ前にオルニチン6グラムを飲んでおくと、アンモニアの排泄が速まって疲れが減るという実験です。実験のはじめと終わりに採血してアンモニアを測定しました。その結果によれば、オルニチンには自転車漕ぎでできるアンモニアを速やかに排泄する効き目があって、水だけを飲んで実験した人よりも疲労度がずっと少なかったのです。とは言え、6グラムという量は、毎日飲む推奨量の7倍にもなるので、もし毎日続けて飲むと、網膜の病気に罹るリスクが高まってしまいます。

 最後に結論です:「朝のスッキリ、1日中元気」を期待してオルニチンサプリを飲むならば、「1日しじみ1800個分」を守ることが大事です。サプリに過度に依存して、「もっと飲めば・・・」などど考えてはいけません。

文献1: Hayasaka S, et al. Retinal risks of high-dose ornithine supplements: a review. Br J Nutr 106: 801-11, 2011.
文献2: Sugino T, et al. L-ornithine supplementation attenuates physical fatigue in healthy volunteers by modulating lipid and amino acid metabolism. Nutr Res 28: 738-43, 2008.

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